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岩田基嗣「改訂版 異説 多摩川上流水源地の歴史」を読んだ

 岩田基嗣「改訂版 異説 多摩川上流水源地の歴史」を読んだ。

 職場で借りた本である。「第一章 東京市による水源林の経営まで」で総論的な水源林の歴史を述べ、第2章で源流の一ノ瀬・高橋集落、第3章で天然林伐採の歴史、と個別的な話題を掘り下げて論述している。「異説」とあるようにどちらかというと歴史の裏話みたいな話が多い。

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 神奈川県から東京府への三多摩の移管は東京府による水源の一体的管理が表立った理由とされているが、帝国議会における自由党の分断を図ったためなどとややきな臭い話が載っている。

 政府は自由党発祥以来の最大最強の地盤である三多摩を改進党の強い東京府に編入することによって自由党勢力の減殺をはかったのである。軍備大増強を阻もうとする自由党の存在は、政府にとって最大の障害であった。

岩田基嗣「改訂版 異説 多摩川上流水源地の歴史」(西多摩新聞社,2014)P.29

 他にも皇室の所有する御料林を東京府が譲り受ける際、御料局長との交渉にあたった林学者本多静六博士は台帳の面積から算出した1782円で譲り受けることと約束している話が紹介されている。本多は金額について口約束を結んだ後、知事に報告する。実面積が台帳の10倍以上であることに気づいた御料局長は實際面積でなければ困る(P45)と再交渉を持ちかけるが、本多は以下のように切り返す。

 今更それができないと云われては、自分は切腹するより外ありません。あなたは私に詰腹を切らすのですか、と迫りますと、長官は顔色を變へて、沈黙暫くあって、丁と机を打って、いやよく解りました。

岩田基嗣「改訂版 異説 多摩川上流水源地の歴史」(西多摩新聞社,2014)P.45, 46

 なんかえらい強引だなと思うが、本多の回想録によるものなので大分話を大げさにしているのかもしれない。本多は手に入れた御料林のうち、泉水谷で植林を開始する。しかし、塩山まで遠く搬出困難なため採算が取れず、製炭にに切り替えるも雪と寒さが厳しいために逃げ出す製炭夫が続出する。このため筆者は水源林経営は失敗と断じている。裂石から丸川峠まで簡易索道が設置されていたというのは登山者として興味深い。

 第2章「見捨てられた源流の村 一ノ瀬・高橋」は一ノ瀬・高橋集落が萩原十ヶ村の枝郷としてないがしろにされた話、第3章「天然林伐採の歴史」は日本深山開発株式会社による奥後青岩谷、泉水谷での伐採、飛田勝造による小河内ダムの人夫確保問題を取り上げている。

 以降は以下のような個別の話題である。

 筆者は1950年(昭和25年)に水源林事務所の臨時職員として就職し、1990年(平成2年)に東京都水道局水源管理事務所を退職している。その割に立場はむしろ虐げられた住民寄りの視点で描かれている。

 前書のあとがきでも述べたが、多摩川上流山梨県分の64%が東京市(都)有林で有ることから、特に戦前においては為政者側の視点に立った歴史が語られてきたように思う。そこには、どうしても為政者に都合の悪い部分は省かれるか、カモフラージュされた。本書は前書を読み直し、前書で省略した五・六・七章を加えてそのあたりを明らかにしようと試みたものである。

岩田基嗣「改訂版 異説 多摩川上流水源地の歴史」(西多摩新聞社,2014)P.12

 立場があると告発に似た居心地の悪さがあるように思うが、地元の人たちとの格差に不条理を覚えこのような立場に至ったそうだ。

「異説」だけに内容が深く、前提としての水源林の歴史をある程度知らないとわからない内容が多かった。また、漢字の多い原典の引用も多く、正直すっ飛ばしたページも多い。郷土研究の一環なので初心者に難しく感じるのは仕方ないのだろう。

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コメント

このような本があるとは知りませんでした。さきほど図書館で借りてきて、今読んでますが、原典もいろいろあるし、作者の筋が一貫してて、読みやすいですね。
  1. 2017/03/19(日) 13:41:41 |
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